借金は、ずっと誰にも言っていなかった。

家族にも。

当時付き合っていた相手にも。

もちろん会社にも。

約250万円。

なかなか立派な金額になっていたが、

匿名男、完全非公開で運営していた。

公開するものではない。

「なんでそんなにお金ないの?」

30代前半。

当時、一緒に暮らしていた相手はかなり倹約家だった。

一方の僕は、

給料が入る。

返済する。

生活費が足りなくなる。

借りる。

翌月、また返済する。

足りない。

借りる。

そんな生活をしていた。

当然、一緒に暮らしていれば不思議に思われる。

「なんでそんなにお金ないの?」

そんなことを聞かれることもあった。

そのたびに、ごまかした。

借金があるとは言えなかった。

そして金が足りなくなる。

でも借金のことは言えない。

だから、また借りる。

つまり僕は、

借金を隠すために、さらに借金をしていた。

今になって文字にすると、なかなかすごい。

火事が起きているのに、

煙だけ一生懸命うちわで散らしている。

火を消せ。

個人再生は、前から知っていた

実は「個人再生」という言葉自体は、何年も前から知っていた。

インターネットを見ていると、

「借金が減るかもしれません」

「あなたの借金はいくら減る?」

みたいな広告が出てくる。

借金のある人間に、

借金関係の広告はよく届く。

インターネット、よく見ている。

ただ、僕は信用していなかった。

そんな都合のいい話があるのか。

怪しくないのか。

そもそも弁護士に頼むなら、お金がかかる。

僕はお金がないから困っている。

なのに、

お金を払って、お金がないことを相談する。

どういう仕組みなんだ。

だから何度か調べても、

「まあ、今は無理だな」

で終わった。

そして翌月も返済する。

足りなくなる。

借りる。

個人再生という言葉だけは知っている。

でも、自分が本当にやるものだとは思っていなかった。

一人暮らしに戻って、さらに苦しくなった

30代半ば。

当時の交際相手と別れ、一人暮らしに戻った。

この頃の手取りは23〜24万円ほど。

一方で、返済額は月10万円を超えることも珍しくなく、多い月にはさらに膨らんだ。

足りなければクレジットカードを使う。

リボも使う。

その請求が翌月やってくる。

そしてまた返済する。

算数が成立していない。

完済する未来は、まったく見えなかった。

それでも僕は、

借金を誰にも言わなかった。

新しい人と出会った

その後、今のパートナーと出会った。

交際することになったとき、

僕は一つ決めた。

借金のことを最初に話そう。

前と同じことはしたくなかった。

お金がない理由をごまかす。

困ったらまた借りる。

それを隠すために、さらにごまかす。

もう一度あれをやるのは嫌だった。

だから話した。

約250万円の借金があること。

返しては借りる状態になっていること。

金銭的にかなり苦しいこと。

当然、怖かった。

これを聞いて、

「それなら付き合えない」

と言われてもおかしくない。

でも、

受け入れてもらえた。

本当にありがたかった。

この時点で、

借金は1円も減っていない。

返済額も変わらない。

銀行口座に奇跡の入金があったわけでもない。

でも、一つだけ変わった。

借金を隠して生きるのをやめた。

ただし。

ここで匿名男が突然覚醒し、

翌朝から猛烈な勢いで債務整理を始めたわけではない。

人間、

そんなに急には変わらない。

そんな僕を本格的に動かしたのは、

歯だった。

前歯が割れた

付き合ってしばらくした頃。

差し歯が割れた。

ちなみに匿名男、

前歯が差し歯である。

昔、格闘技ごっこなどをしてヤンチャしていた。

その結果である。

過去の匿名男は、

現在の匿名男にいろいろ残してくる。

借金。

そして差し歯。

ろくな相続がない。

問題は、

歯を直すには当然お金がかかるということだった。

まとまった治療費を出せる余裕はない。

するとパートナーが、

「良い歯を入れなさい」

と治療費を援助してくれた。

ありがたかった。

本当にありがたかった。

だからこそ、

ものすごく不甲斐なかった。

僕は働いている。

毎月、給料も入っている。

それなのに、

自分の前歯を直すお金すら自分で出せない。

借金があることは、もう隠していない。

でも、

隠していないだけで、何も解決していない。

この状況をどうにかしなければならない。

借金を「隠す」のをやめた。

次は、

「解決する」番だった。

債務整理を、本気で調べた

ここから改めて債務整理について調べた。

任意整理。

自己破産。

個人再生。

言葉だけなら、なんとなく知っている。

でも、

自分が実際にやる前提で調べると、見え方が全然違った。

借金は約250万円。

手取りは23〜24万円ほど。

僕が欲しかったのは、

その場しのぎではなく、

もう「返して、足りなくなって、また借りる」に戻らない方法だった。

任意整理ならどうなる

最初に考えたのが任意整理だった。

裁判所を使わず、債権者と今後の返済について調整していく方法。

当時の僕は、

「元本に近い金額を数年間かけて返していくことになるのかな」

くらいの理解をしていた。

ただ、

約250万円ある。

収入が大きく増える予定もない。

ここから数年間返していく。

本当に生活を立て直せるのか。

返済額を軽くできても、

生活費が足りなくなって、

また同じことを繰り返すのではないか。

返す。

足りない。

借りる。

この矢印に戻ることだけは避けたかった。

自己破産。借金がなくなる。

当然、自己破産についても調べた。

条件を満たして免責が認められれば、借金の支払義務が免除される。

正直に言う。

めちゃくちゃ魅力的だった。

約250万円。

0円。

すごい。

しかも僕には、

家もない。

車もない。

守らなければならない高価な資産も、ほとんどない。

こういうときだけ、持たざる者は強い。

「自己破産でいいのでは?」

とも思った。

ところが、一つ大きな問題があった。

仕事で使っている資格だった。

当時、自分で調べた範囲では、

自己破産の手続きによって仕事や資格に影響が出る可能性があると考えた。

仕事に影響する。

これは困る。

借金を整理するために、

収入源まで危うくしては意味がない。

少なくとも当時の僕には、

自己破産は選べなかった。

そしてもう一つ。

これは法律でも制度でもない。

完全に、僕自身の気持ちの問題だった。

この借金は、

誰かに無理やり背負わされたものではない。

最初は仕事のためだった。

生活費が足りなかったこともある。

引っ越しもあった。

いろいろ理由はある。

でも。

返しては借りるを繰り返し、

リボまで使って、

約250万円まで育てたのは、

僕である。

全部なくしてもらえるなら、もちろん嬉しい。

本当に嬉しい。

でも、

どこか後ろめたい。

仕事の都合で、そもそも自己破産は僕の選択肢には入ってこなかった。

だったら、

「いや、自分で作った借金なんだから、返せる分は返すのが当然だろう」

僕自身、そう納得した。

自己破産ではなく、

返せるところまで整理して、そこから返していく方法。

僕はそちらを選ぶことにした。

これはあくまで、僕自身が当時どう考えたかという話だ。

自己破産を選ぶ人が無責任だ、という意味ではない。

そこで、個人再生だった

そして個人再生。

調べれば調べるほど、

それまでの僕の生活とは縁のなかった言葉が出てくる。

弁護士。

裁判所。

そして、

官報。

怖い。

普通に会社員をして生活してきた僕には、

どれもだいぶ怖い。

特に官報。

個人再生をすると、官報に掲載されるらしい。

なるほど。

ところで官報ってなんぞや。

よく分からないものに自分の名前が載る。

よく分からないので、余計に怖い。

会社にバレるのか。

知り合いに見つかるのか。

そもそも誰が読んでいるんだ。

また検索する。

そんな不安はあった。

それでも個人再生について調べていくと、

当時約250万円の借金があった僕の場合、条件によっては100万円が最低弁済額の一つの基準になり得ることを知った。

もちろん、

250万円なら必ず100万円になる

という意味ではない。

財産の状況などによって、実際に返済する金額は変わる。

それでも、

約250万円を抱えたまま返済を続けるのと、

返済できるところまで整理して、

そこから生活そのものを立て直していくのとでは、

僕にとって意味が大きく違った。

仕事を続ける。

生活する。

そして、返せる分は返す。

僕が探していたものに、一番近かった。

怖くないわけではない。

むしろ、

弁護士も怖い。
裁判所も怖い。
官報は何なのかすらよく分からない。

それでも、

今の生活をこのまま続ける方が怖かった。

だから、

個人再生をしよう。

そう決めた。

ところで、誰に頼めばいいんだ

方法は決まった。

では次。

個人再生は、

どうやって始めるんだ。

自分一人で裁判所へ行く?

弁護士?

司法書士?

料金はいくら?

そもそも僕には、

弁護士へ払うお金もない。

調べる。

もちろんGoogleである。

僕の人生には、ずっとGoogleがいる。

インターネットギークなのである。

パソコン。

病気。

買い物。

人間関係。

借金。

分からないことがあれば、とりあえず検索する。

今回も同じだった。

まず僕が考えたのは、

広告でよく見る有名な法律事務所だった。

ラジオCM。

電車広告。

ネット広告。

名前を知っている。

有名。

大きそう。

なら安心だろう。

非常に分かりやすい判断基準である。

パートナーにも話した。

すると、

止められた。

「そういう広告をたくさん出しているところって、なんか胡散臭くない?」

「無理に契約させられたりしない?」

そんなことを言われた。

念のため言っておく。

完全に恋人の偏見である。

その法律事務所で何か問題があったわけではない。

相談すらしていない。

ラジオCMと電車広告に対する、

完全なるイメージである。

しかし、

匿名男にもそれを否定できるだけの知識がない。

借金約250万円。

法律知識ほぼゼロ。

弁護士選びの経験、

当然ゼロ。

「……じゃあ、もう少し探すか」

Googleへ戻った。

そして僕は、

一つの法律事務所を見つける。

個人再生の費用を見る。

安い。

他と比べても、

明らかに安い。

そこで僕が最初に思ったことは、

「ここにしよう!」

ではなかった。

詐欺では?

個人再生を決意した匿名男。

次に始めたのは、

弁護士への相談ではなく、

その弁護士が本当に存在するのかを調べることだった。